Interview
水問題の解決から、社会全体を変えていく。小規模分散型の水循環社会とは何か?
WOTA株式会社 代表取締役CEO
前田瑶介さん
徳島県出身。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院工学系研究科建築学専攻(修士課程)修了。小学生の頃から生物学研究を開始し、中学生で水問題に関心を持ったことをきっかけに、高校時代に水処理の研究を実施。大学では都市インフラや途上国スラムの生活環境を、大学院では住宅設備(給排水衛生設備)を研究。ほか、デジタルアート等のセンサー開発・制御開発に従事。WOTA CEOとして、水問題の構造的解決を目指す。
個人というミクロの枠を超え、社会をマクロ的に捉える。
その目線の先に未来への道筋が見えてくる。
私の生まれた徳島県西部の山間部は上下水道が無い地域が殆どでした。少子高齢化が進み人口が減っていくような土地であったこともあり、幼い頃から生物研究に没頭していました。中学校2年生のときに中高生科学研究部門で「蜘蛛の糸」をテーマにした研究がコンテストで最優秀賞となりアメリカの国立衛生研究所(NIH)に派遣していただき、そこで元副大統領だったアル・ゴアさんのスピーチを聴く機会を得ることができました。「環境問題は立場に関係ないものであり、それに取り組めば、人類はunify(団結)することが可能になる」という趣旨のアル・ゴアさんがお話しされていたのですが、これは本日の議論のテーマとも非常に絡むと思っています。この時の出会いが、生物と生態系といった事象への対峙の仕方が変わり、個人的好奇心から社会的なものとして物事を捉えるようになった重要なきっかけになりました。
帰国後に瀬戸内の豊島に行き、廃棄物と排水の処理が不十分であることで深刻な水環境汚染の問題が進み、人が住めない場所になってしまったことを知り、そこで「水処理の問題」と出会い、高校時代には納豆から得られる高分子化合物で水質を浄化する水処理研究へと没頭しました。一方で、技術だけではいわゆる社会実装ができない、つまり新しい技術があっても、社会システムや都市の設計を理解しないと結局実装できないと思い至り、東京大学の建築学科を目指し、合格発表のために上京していたのですが、その翌日、東日本大地震に遭遇しました。東日本大震災では都市インフラが完全にストップし都市インフラは “絶対” ではないことを理解しました。避難所では、水が止まったトイレの状態を目の当たりにし、トイレを我慢したお年寄りが脱水症状で亡くなっていく。次の大規模災害ではこのような景色を起こしたくないと考えるようになりました。
中央集権型から、非中央集権型へ。
方法論の民主化により、解決へと一挙に導く。
次に、21世紀の水の課題についてお話をしていきたいと思います。
21世紀に起きている水の課題とは、もともと水が少なかったところだけではなく、水がかつて豊かに使えたところでも使えなくなってきてるところにあります。人間の排水が水環境を汚してしまって自然水源を使えなくなってしまうことが世界各所で起きています。あるいは、大都市メキシコシティでは、人口増加に伴い、地下水を使い果たしてしまった一部のエリアで水が使えなくなってしまっています。ケニアのナイロビ近郊のスラムでも、安全な水が使えない状況が生まれています。スラムという社会構造そのものが起因となり引き起こされた水問題と捉えることができます。川沿いに不法居住の住宅が立ち並ぶ地域ですが、川の両サイドからトイレの排水が処理されることなく、そのまま流れて、そのような状態の川で子供たちが遊んだり洗濯をする光景にも出会いました。こういう現場に実際に行き、生活環境改善の問題に取り組むプロジェクトに複数参加をし、世界中のインフラを横断的に見ることにトライしました。
このような世界的な水問題は、水が足りない、水の汚染、これらのインフラ問題を解決するための膨大な費用、つまり上下水道を維持するための費用が莫大で赤字になるという問題が複雑に絡み合っています。水が足りない、水の汚染という水問題の最大の理由は人口の爆発的な増加という点にあります。一方で、人口が減少しているはずの日本の上下水道にかかる財政は増えている。これらを整理すると、水問題の構造、及び、水道問題の構造には発達段階が3段階あります。第1段階は水不足。それを解決しようとすると水利用量が増えて排水が増えて水質が悪化する。これが第2段階。そこで、下水道を整備しなければいけなくなり上下水道の両方を普及させ、結果赤字になる。これが水問題、上下水道問題における3段階の発展段階の構造であると整理することができます。
水問題そのものを解決したい人は世界中にいます。しかし、どうして解決をしないのか。それは、みんなが参加できる方法がないからです。みんなが参加できるような構造を作ることが非常に重要です。水問題の解決は、街づくり、都市の設計プロジェクトの性質に非常に近い。問題を解決するための構造化、方法論を立てる。そして、そこに参加者がどんどん増えれば水問題は解決する。水問題解決に必要なのは、水問題を解決する手段の「民主化」であると私は考えています。
そこで、建設業型モデルから製造業型モデルへの移行を構造的に考え、つまり、いわゆる都市全体をどう構造化するのかというマクロ的なアプローチから、各家庭に普及させる小さな設備を置いていくミクロ的なアプローチ法に切り替えた。それが、私が取り組んでいるWOTA株式会社の事業になります。
技術の集約と社会実装。
パーパスという共通の目的で、世界を繋ぐ。
WOTA株式会社は投資家の皆様にご支援いただき、これまでやってきまして、2023年の水処理スタートアップとしては世界最大規模の資金を累計57社の企業様から集めることができました。「水問題解決のためだけの純粋な会社を作ろう」というパーパスのもとに集まった会社です。水問題の現場に飛び込んで実際そこにいらっしゃる方々の話を聞いて、一緒に問題解決をしないと問題点が結局わからない。何もできない。一方で、それだけやってても水問題は解決できない。マクロな視点、つまり、全体としては、どういう構造的な共通点があるのか、どういうオペレーションをするとグローバルに、世界に届けられるのかを考えています。ミクロとマクロ。それを同時にやり続けるのが弊社のパーパスです。
事業としては、上下水道の代替となる新しい水インフラを設計することですが、まずは、災害の水問題をとにかく次の災害で起こしたくないという思いがありました。2018年の岡山県倉敷市真備町の西日本豪雨の被災地で撮った写真ですけども、いわゆる広域断水により水が使えなくなる問題を解決するために、水道が断絶した状況において、一度使ったシャワーなどの排水を再生し、飲用レベルで使う再利用できるシステムを持参し実際に現場にお届けしました。結局、WOTAのメンバーが昼夜問わず張り付いて作業を行う状態でしたが、非常に手応えがあった。水の問題が解決しシャワーを浴びると、避難所でずっと黙っていたお子さんがいきなり泣いたり笑い出したりする、水ってそういう可能性あるんだなという場面を実際に体感することもできました。
そこから、プロダクト化して誰でも使えるようにすることで、水問題の解決に誰でも参加できるようにしました。2019年に長野県で台風19号が襲い、長野市のあるエリア全体の水が使えなくなった状況がありました。そのエリアの避難所全てで、弊社の製品を導入していただき、誰も水に困らない状況を実現することができました。
それが、今はどんどん広がっていて、今年のいろんな災害でプロダクトを使っていただき、災害現場でも水を使うこともできるようになっています。トルコの地震災害でも使用していただきました。2023年までで国内だけで2万人以上の方々が災害現場で水問題解決とそれを通したコミュニケーションが行われているのを目にしてきました。排水を再利用する、超コンパクトな浄水場をつくる。これを実現する技術の根幹にあるのは「水処理を自動化する」ことです。今までは酒蔵のような属人的オペレーションだったものを、センサーとアルゴリズムを導入することで自動化していきました。世界でも我々しかやってないような分野になります。小型の設備にも関わらず、飲める水のレベルの基準を満たし、98%以上の水量を再利用できるのは我々しかいません。MITなどから輩出される水再生ベンチャーと我々は別のポジショニングです。弊社には多様なメンバーが世界中から集まってきています。主に、水処理業界、IT業界出身、モノづくり業界などからどんどん集まってきている。
水と人間、自然と人間の関係性を再定義する
インターフェースを構築する。
今後の展開について、お話をしていきたいと思います。
今年で創業10期目に入りました。上下水道だけでは水問題を解決できません。世界人口に対して40%の水が足りないこと。一方で、日本のように上下水道を国の隅々まで普及させると大赤字になりますし、その財政赤字の度合いは人口減少によって、より一層広がっていく。そのような背景のもと、水インフラの赤字を無くしたいと考えています。次の世代に向けて、持続可能な水インフラを増やしたい。日本中どこでも住める、そして財政的な負担と格差がないものを目指したいのです。
都道府県部別にみても年間数千億円単位での財政政策ができますし、市町村単位でも年間数十億円単位の経費削減ができる。水インフラを分散化するとこれぐらいコストが下がるという地理的なシミュレーションを、500mメッシュ単位で算出することが可能です。
2021年につくった軽井沢の実験住宅では排水と雨水で自給自足してできる状態になっています。このように一軒の家単位では実装が可能になっていますが、2024年から住宅向けの水循環システムの量産を開始しようとしているところです。日本以外では、カリブ海のアンティル諸島という場所で実装しようとしています。仕組みとしては、3系統に分かれています。雨水は飲み水にその場で処理し飲用とする。トイレは再生しトイレの洗浄水とする。それ以外の排水は、飲用できる水質で洗濯・風呂・キッチンで再利用をすることを行なっている。これまでの上下水道の仕組みでは、日本の過疎地域では、水道管の設置が10kmの長さで必要だとすると、1km当たり約1億円、10kmで10億円、例えばそこに40世帯が接続する場合、1世帯あたり2500万円の整備が必要であるという計算になります。ところが、弊社のシステムの場合は設置工事費を含めて1世帯で300万円程度を目指しており、約10分の1のコストダウンを図ることが可能になる。
実際に、東京都の島嶼部では、コンテナハウスに上記のシステムのプロトタイプを内蔵したものを設置していただき、農協の職員の方に住んでもらっている。他の住民の方々も住みたいと言ってくださっている状況です。また、愛媛県では県として市町村がこのシステムの導入を実証する際の補助、予算をつけていただき、西予市、伊予市、今治市で実際に住民の方に住んでいただきます。導入したことで、使用いただいた方々からは「使った排水が循環することを意識して、水を使うようになった」という声もいただいています。地域の事業者さまと一緒にオペレーションを作るなど、自治体の方々と一緒に解決する新たなモデルをやっていきたいと考えています。
水問題解決により「地域の成長を生む」ということを目指しており、その結果、「地域らしさ」が出てくると良いなと思っています。これを日本だけじゃなくて、グローバルに広げていきたい。我々の事業は「水と人間の関係性を再定義するインターフェースを作っている」と捉えています。今までのインフラは、人と資源との間にコミュニケーションがない、ブラックボックスのような容態のインフラだった。この事業を通して作りたいのは、人と水などの資源の間にコミュニケーションがある状況であり状態なのです。使った水が、一体どこにいっているのかわからないのではなく、使った水を自分で処理すること、綺麗に使えばコストが低くなること。一定の透明性や双方向性が確保されることで、人と自然と社会のインターフェースを作りたいと考えています。
水をどのように使うのか? どのように伝えるのか?
他者を尊重する公平性という心の軸が世界の境界をつなぎ
そして、新たな水の文化を生み出していく。
我々の取り組みのモチベーションは「この世に生まれた以上は世のため人のために生きたい」「やるなら世界一になる」「世界中の人と繋がっていく」以上の3つです。経済学者アダム・スミスは市場原理が働くためには “神の見えざる手” が必要であると、その原動力として、市場の至る所に“公平な観察者”の存在が必要であるということです。このような「公平性」という観念を、例えば途上国のスラムエリアで伝えようとするとものすごく時間がかかりますし、何世代にも渡って伝える努力をしないといけない。このスラムで体感したことは、生活環境の改善については何度伝えても進まなかったのですが、実際に一軒やってみて、そのトイレが臭くなくなって、その裏の川が臭くなくなると、そこからはみんな戻れなくなるんです。つまり、実際の生活の中に、生活を物理的に改善する仕組みとして組み込むことにより、不可逆な社会改善が可能であるということ。これは観念ではなく「身体的な価値」であると。社会全体と言葉を超えて世界と繋がって社会全体を前に進める上で、非常に重要なキーワードだと考えています。
今回は、上記のような視点で、京都における水と都市の関係性や水と人の関係性、これってどういうところができるんだろうということを考えてみたいと思います。そのヒントを京都の西芳寺の事例から考えました。西芳寺さんにWOTAの製品を導入していただいてるんですけれども、そもそも世界遺産という前提上、水道工事がしづらいという背景がありました。禅と水循環には、文化的、理念的、かつ思想的な親和性がある。禅の修行においても、水一杯で一日を暮らすという修行があるらしいのですが、このように、水をどううまく使うか? 資源とどういう関係性を作るか? ということは、他者との関係性の話なんですね。そして、自然というのは究極の他者である。自然と人、水と人の関係性とは他者論を考えるようなことであると捉えており、そこに思想があることが重要なキーワードであると考えています。墨田区の雨水利用の文化、琵琶湖で起きた石鹸運動、これらも、文明的な水利用の問題ではなく、文化的な水利用として、つまり、水問題をきっかけに社会がつながるためのきっかけであったと私は捉えています。
価値観、理念、思想というSocial Welfare を
境界を超えて対話をしていくための価値基準として
世界へ発信していく。
最後に、では、どうして日本から水問題に取り組む必要があるのか? についてお話します。
日本という国が世界に先駆けて上下水道を普及させた結果、国全体の水インフラの水準として世界トップレベルになりましたが、財政的には大きな赤字になりました。どの国よりも真面目に取り組んだ結果、水問題の最先端のところに立っている。これが水問題における最終フェーズと考えており、この最後のフェーズにおける解決策は分散化です。そのために、製造業の設計思想と水処理を融合させるというアプローチ方法が最適であると我々は考えています。水問題解決アプローチにおいて製造業のアーキテクチャを取り入れたその目的は「標準化」です。標準化というのは「みんなが参加できるプロセスにする」ということです。つまり、再現性のある開かれたプロセスとする。この発想は「水問題を解決する手段の民主化である」という冒頭でお話したことに繋がります。
だからこそ、日本からやっていく意義があるし、言葉を超えて、ソリューションやプロジェクトということだけではなく、価値観や理念、思想を世界に届けられると考えています。そうした価値が京都のまちづくりを通して世界に広がっていく。その一つのきっかけとして、人と水、人と自然の境界を超えていく対話として「水と文化」が世界にとってのヒントになるといいなと思っています。
京都市の「カルチャープレナーの創造活動促進事業」*にて採択され実施したプロジェクトの活動報告レポートより抜粋。本レポートは、京都市が目指す「文化と経済の好循環を創出する都市」をテーマに都市構造を読み解き、京都という都市が持続的に発展し続けるための構想を提案しています。
*令和5年度カルチャープレナーの創造活動促進事業〜カルチャープレナー等の交流・コミュニティ創出
Interview
水問題の解決から、社会全体を変えていく。小規模分散型の水循環社会とは何か?
WOTA株式会社 代表取締役CEO
前田瑶介さん
個人というミクロの枠を超え、社会をマクロ的に捉える。
その目線の先に未来への道筋が見えてくる。
私の生まれた徳島県西部の山間部は上下水道が無い地域が殆どでした。少子高齢化が進み人口が減っていくような土地であったこともあり、幼い頃から生物研究に没頭していました。中学校2年生のときに中高生科学研究部門で「蜘蛛の糸」をテーマにした研究がコンテストで最優秀賞となりアメリカの国立衛生研究所(NIH)に派遣していただき、そこで元副大統領だったアル・ゴアさんのスピーチを聴く機会を得ることができました。「環境問題は立場に関係ないものであり、それに取り組めば、人類はunify(団結)することが可能になる」という趣旨のアル・ゴアさんがお話しされていたのですが、これは本日の議論のテーマとも非常に絡むと思っています。この時の出会いが、生物と生態系といった事象への対峙の仕方が変わり、個人的好奇心から社会的なものとして物事を捉えるようになった重要なきっかけになりました。
帰国後に瀬戸内の豊島に行き、廃棄物と排水の処理が不十分であることで深刻な水環境汚染の問題が進み、人が住めない場所になってしまったことを知り、そこで「水処理の問題」と出会い、高校時代には納豆から得られる高分子化合物で水質を浄化する水処理研究へと没頭しました。一方で、技術だけではいわゆる社会実装ができない、つまり新しい技術があっても、社会システムや都市の設計を理解しないと結局実装できないと思い至り、東京大学の建築学科を目指し、合格発表のために上京していたのですが、その翌日、東日本大地震に遭遇しました。東日本大震災では都市インフラが完全にストップし都市インフラは “絶対” ではないことを理解しました。避難所では、水が止まったトイレの状態を目の当たりにし、トイレを我慢したお年寄りが脱水症状で亡くなっていく。次の大規模災害ではこのような景色を起こしたくないと考えるようになりました。
中央集権型から、非中央集権型へ。
方法論の民主化により、解決へと一挙に導く。
次に、21世紀の水の課題についてお話をしていきたいと思います。
21世紀に起きている水の課題とは、もともと水が少なかったところだけではなく、水がかつて豊かに使えたところでも使えなくなってきてるところにあります。人間の排水が水環境を汚してしまって自然水源を使えなくなってしまうことが世界各所で起きています。あるいは、大都市メキシコシティでは、人口増加に伴い、地下水を使い果たしてしまった一部のエリアで水が使えなくなってしまっています。ケニアのナイロビ近郊のスラムでも、安全な水が使えない状況が生まれています。スラムという社会構造そのものが起因となり引き起こされた水問題と捉えることができます。川沿いに不法居住の住宅が立ち並ぶ地域ですが、川の両サイドからトイレの排水が処理されることなく、そのまま流れて、そのような状態の川で子供たちが遊んだり洗濯をする光景にも出会いました。こういう現場に実際に行き、生活環境改善の問題に取り組むプロジェクトに複数参加をし、世界中のインフラを横断的に見ることにトライしました。
このような世界的な水問題は、水が足りない、水の汚染、これらのインフラ問題を解決するための膨大な費用、つまり上下水道を維持するための費用が莫大で赤字になるという問題が複雑に絡み合っています。水が足りない、水の汚染という水問題の最大の理由は人口の爆発的な増加という点にあります。一方で、人口が減少しているはずの日本の上下水道にかかる財政は増えている。これらを整理すると、水問題の構造、及び、水道問題の構造には発達段階が3段階あります。第1段階は水不足。それを解決しようとすると水利用量が増えて排水が増えて水質が悪化する。これが第2段階。そこで、下水道を整備しなければいけなくなり上下水道の両方を普及させ、結果赤字になる。これが水問題、上下水道問題における3段階の発展段階の構造であると整理することができます。
水問題そのものを解決したい人は世界中にいます。しかし、どうして解決をしないのか。それは、みんなが参加できる方法がないからです。みんなが参加できるような構造を作ることが非常に重要です。水問題の解決は、街づくり、都市の設計プロジェクトの性質に非常に近い。問題を解決するための構造化、方法論を立てる。そして、そこに参加者がどんどん増えれば水問題は解決する。水問題解決に必要なのは、水問題を解決する手段の「民主化」であると私は考えています。
そこで、建設業型モデルから製造業型モデルへの移行を構造的に考え、つまり、いわゆる都市全体をどう構造化するのかというマクロ的なアプローチから、各家庭に普及させる小さな設備を置いていくミクロ的なアプローチ法に切り替えた。それが、私が取り組んでいるWOTA株式会社の事業になります。
技術の集約と社会実装。
パーパスという共通の目的で、世界を繋ぐ。
WOTA株式会社は投資家の皆様にご支援いただき、これまでやってきまして、2023年の水処理スタートアップとしては世界最大規模の資金を累計57社の企業様から集めることができました。「水問題解決のためだけの純粋な会社を作ろう」というパーパスのもとに集まった会社です。水問題の現場に飛び込んで実際そこにいらっしゃる方々の話を聞いて、一緒に問題解決をしないと問題点が結局わからない。何もできない。一方で、それだけやってても水問題は解決できない。マクロな視点、つまり、全体としては、どういう構造的な共通点があるのか、どういうオペレーションをするとグローバルに、世界に届けられるのかを考えています。ミクロとマクロ。それを同時にやり続けるのが弊社のパーパスです。
事業としては、上下水道の代替となる新しい水インフラを設計することですが、まずは、災害の水問題をとにかく次の災害で起こしたくないという思いがありました。2018年の岡山県倉敷市真備町の西日本豪雨の被災地で撮った写真ですけども、いわゆる広域断水により水が使えなくなる問題を解決するために、水道が断絶した状況において、一度使ったシャワーなどの排水を再生し、飲用レベルで使う再利用できるシステムを持参し実際に現場にお届けしました。結局、WOTAのメンバーが昼夜問わず張り付いて作業を行う状態でしたが、非常に手応えがあった。水の問題が解決しシャワーを浴びると、避難所でずっと黙っていたお子さんがいきなり泣いたり笑い出したりする、水ってそういう可能性あるんだなという場面を実際に体感することもできました。
そこから、プロダクト化して誰でも使えるようにすることで、水問題の解決に誰でも参加できるようにしました。2019年に長野県で台風19号が襲い、長野市のあるエリア全体の水が使えなくなった状況がありました。そのエリアの避難所全てで、弊社の製品を導入していただき、誰も水に困らない状況を実現することができました。
それが、今はどんどん広がっていて、今年のいろんな災害でプロダクトを使っていただき、災害現場でも水を使うこともできるようになっています。トルコの地震災害でも使用していただきました。2023年までで国内だけで2万人以上の方々が災害現場で水問題解決とそれを通したコミュニケーションが行われているのを目にしてきました。排水を再利用する、超コンパクトな浄水場をつくる。これを実現する技術の根幹にあるのは「水処理を自動化する」ことです。今までは酒蔵のような属人的オペレーションだったものを、センサーとアルゴリズムを導入することで自動化していきました。世界でも我々しかやってないような分野になります。小型の設備にも関わらず、飲める水のレベルの基準を満たし、98%以上の水量を再利用できるのは我々しかいません。MITなどから輩出される水再生ベンチャーと我々は別のポジショニングです。弊社には多様なメンバーが世界中から集まってきています。主に、水処理業界、IT業界出身、モノづくり業界などからどんどん集まってきている。
水と人間、自然と人間の関係性を再定義する
インターフェースを構築する。
今後の展開について、お話をしていきたいと思います。
今年で創業10期目に入りました。上下水道だけでは水問題を解決できません。世界人口に対して40%の水が足りないこと。一方で、日本のように上下水道を国の隅々まで普及させると大赤字になりますし、その財政赤字の度合いは人口減少によって、より一層広がっていく。そのような背景のもと、水インフラの赤字を無くしたいと考えています。次の世代に向けて、持続可能な水インフラを増やしたい。日本中どこでも住める、そして財政的な負担と格差がないものを目指したいのです。
都道府県部別にみても年間数千億円単位での財政政策ができますし、市町村単位でも年間数十億円単位の経費削減ができる。水インフラを分散化するとこれぐらいコストが下がるという地理的なシミュレーションを、500mメッシュ単位で算出することが可能です。
2021年につくった軽井沢の実験住宅では排水と雨水で自給自足してできる状態になっています。このように一軒の家単位では実装が可能になっていますが、2024年から住宅向けの水循環システムの量産を開始しようとしているところです。日本以外では、カリブ海のアンティル諸島という場所で実装しようとしています。仕組みとしては、3系統に分かれています。雨水は飲み水にその場で処理し飲用とする。トイレは再生しトイレの洗浄水とする。それ以外の排水は、飲用できる水質で洗濯・風呂・キッチンで再利用をすることを行なっている。これまでの上下水道の仕組みでは、日本の過疎地域では、水道管の設置が10kmの長さで必要だとすると、1km当たり約1億円、10kmで10億円、例えばそこに40世帯が接続する場合、1世帯あたり2500万円の整備が必要であるという計算になります。ところが、弊社のシステムの場合は設置工事費を含めて1世帯で300万円程度を目指しており、約10分の1のコストダウンを図ることが可能になる。
実際に、東京都の島嶼部では、コンテナハウスに上記のシステムのプロトタイプを内蔵したものを設置していただき、農協の職員の方に住んでもらっている。他の住民の方々も住みたいと言ってくださっている状況です。また、愛媛県では県として市町村がこのシステムの導入を実証する際の補助、予算をつけていただき、西予市、伊予市、今治市で実際に住民の方に住んでいただきます。導入したことで、使用いただいた方々からは「使った排水が循環することを意識して、水を使うようになった」という声もいただいています。地域の事業者さまと一緒にオペレーションを作るなど、自治体の方々と一緒に解決する新たなモデルをやっていきたいと考えています。
水問題解決により「地域の成長を生む」ということを目指しており、その結果、「地域らしさ」が出てくると良いなと思っています。これを日本だけじゃなくて、グローバルに広げていきたい。我々の事業は「水と人間の関係性を再定義するインターフェースを作っている」と捉えています。今までのインフラは、人と資源との間にコミュニケーションがない、ブラックボックスのような容態のインフラだった。この事業を通して作りたいのは、人と水などの資源の間にコミュニケーションがある状況であり状態なのです。使った水が、一体どこにいっているのかわからないのではなく、使った水を自分で処理すること、綺麗に使えばコストが低くなること。一定の透明性や双方向性が確保されることで、人と自然と社会のインターフェースを作りたいと考えています。
水をどのように使うのか? どのように伝えるのか?
他者を尊重する公平性という心の軸が世界の境界をつなぎ
そして、新たな水の文化を生み出していく。
我々の取り組みのモチベーションは「この世に生まれた以上は世のため人のために生きたい」「やるなら世界一になる」「世界中の人と繋がっていく」以上の3つです。経済学者アダム・スミスは市場原理が働くためには “神の見えざる手” が必要であると、その原動力として、市場の至る所に“公平な観察者”の存在が必要であるということです。このような「公平性」という観念を、例えば途上国のスラムエリアで伝えようとするとものすごく時間がかかりますし、何世代にも渡って伝える努力をしないといけない。このスラムで体感したことは、生活環境の改善については何度伝えても進まなかったのですが、実際に一軒やってみて、そのトイレが臭くなくなって、その裏の川が臭くなくなると、そこからはみんな戻れなくなるんです。つまり、実際の生活の中に、生活を物理的に改善する仕組みとして組み込むことにより、不可逆な社会改善が可能であるということ。これは観念ではなく「身体的な価値」であると。社会全体と言葉を超えて世界と繋がって社会全体を前に進める上で、非常に重要なキーワードだと考えています。
今回は、上記のような視点で、京都における水と都市の関係性や水と人の関係性、これってどういうところができるんだろうということを考えてみたいと思います。そのヒントを京都の西芳寺の事例から考えました。西芳寺さんにWOTAの製品を導入していただいてるんですけれども、そもそも世界遺産という前提上、水道工事がしづらいという背景がありました。禅と水循環には、文化的、理念的、かつ思想的な親和性がある。禅の修行においても、水一杯で一日を暮らすという修行があるらしいのですが、このように、水をどううまく使うか? 資源とどういう関係性を作るか? ということは、他者との関係性の話なんですね。そして、自然というのは究極の他者である。自然と人、水と人の関係性とは他者論を考えるようなことであると捉えており、そこに思想があることが重要なキーワードであると考えています。墨田区の雨水利用の文化、琵琶湖で起きた石鹸運動、これらも、文明的な水利用の問題ではなく、文化的な水利用として、つまり、水問題をきっかけに社会がつながるためのきっかけであったと私は捉えています。
価値観、理念、思想というSocial Welfare を
境界を超えて対話をしていくための価値基準として
世界へ発信していく。
最後に、では、どうして日本から水問題に取り組む必要があるのか? についてお話します。
日本という国が世界に先駆けて上下水道を普及させた結果、国全体の水インフラの水準として世界トップレベルになりましたが、財政的には大きな赤字になりました。どの国よりも真面目に取り組んだ結果、水問題の最先端のところに立っている。これが水問題における最終フェーズと考えており、この最後のフェーズにおける解決策は分散化です。そのために、製造業の設計思想と水処理を融合させるというアプローチ方法が最適であると我々は考えています。水問題解決アプローチにおいて製造業のアーキテクチャを取り入れたその目的は「標準化」です。標準化というのは「みんなが参加できるプロセスにする」ということです。つまり、再現性のある開かれたプロセスとする。この発想は「水問題を解決する手段の民主化である」という冒頭でお話したことに繋がります。
だからこそ、日本からやっていく意義があるし、言葉を超えて、ソリューションやプロジェクトということだけではなく、価値観や理念、思想を世界に届けられると考えています。そうした価値が京都のまちづくりを通して世界に広がっていく。その一つのきっかけとして、人と水、人と自然の境界を超えていく対話として「水と文化」が世界にとってのヒントになるといいなと思っています。
京都市の「カルチャープレナーの創造活動促進事業」*にて採択され実施したプロジェクトの活動報告レポートより抜粋。本レポートは、京都市が目指す「文化と経済の好循環を創出する都市」をテーマに都市構造を読み解き、京都という都市が持続的に発展し続けるための構想を提案しています。
*令和5年度カルチャープレナーの創造活動促進事業〜カルチャープレナー等の交流・コミュニティ創出
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