Interview
原点としての自然へ回帰する
京都五山送り火連合会 会長/大文字保存会理事長
長谷川英文さん
気候変動、温暖化、脱炭素といった世界が共通で抱える課題に対して、企業は環境価値、社会価値として、自社の経済活動と結びつけて、解決を超えた価値を創出し、さらに持続的な活動にしていくことが社会的にも求められている。一方で、日本企業の多くは、経済活動と結びつけることの実感値をはっきりと持つことができないという声が多く、“社会貢献”の域を出ないことも未だ多い。
今、なぜ、企業が自然へ還ることが求められるのか?
それは、本当に経済活動とは結びつかないものなのか?
何百年にも渡り継承されてきた「京都の送り火」という文化に対し、幼い頃から森と向き合い続け、「この火を絶やしてはならない」と京都や日本の森の植林や保全活動に全力を注ぎ込む長谷川英文さんにお話を伺った。
*インタビューは『原点としての自然へ回帰する』というテーマでシリーズ化をし、複数回に分けて、お届けします。
林業、漁業、農業といった第一次産業は、ボタンひとつで出来ることではない。気候変動はいまだに解明できていない。いわゆるAI解析は、コンピューターをいじっている人間がこれまでの統計を元にしてやっていることであり、新しく何かを生み出してはいない。鉄腕アトムで描いていたレベルぐらいのロボットさえ未だに生み出せないのが現実ですよね? 海だって、1万メートル深くまで潜れない状況。
人間は自然の中で生きているということを忘れているのではないですか? 酸素、水は人間が作っていますか? 誰が作っていますか? それらは、地球が生まれてきた時から地球全体が作ってきたもの。人間が作ってきたものではなく、作ってもらっている。この地球に。だから、企業が自然と関わりを持つということは、自分たちが生かされているものに対して対価を払っていくこと。知識と動力をそこに費やしていくことです。
地域への貢献がしたいという企業の方々によくお伝えするのは、まずは、1分間、1日を私にくださいと。その時間を一人ひとりが自然に対しての対価を払っていくことに使ってほしいのです。
雨が降り、地球上に落ちる。植物は雨水という栄養を吸って、栄養を地球上に放っていく。自然は生物を可愛がって、循環している。その循環の中のどこでもいいから何か対価を払えませんか? とお伝えするんです。
企業が社会貢献という言葉を使うのであれば、その地域はどういうものか? どういう人が暮らしているのか? 地域とどう付き合っていくのか? 農家なのか? 林業なのか? 自分たちのできる範囲で払っていけばいいのではないですか。払うというのは、なんでも「お金」ということではない。自分たちが、もしもここで商売したら、こうなんだこうなんだという「形」を作っていくことではないですか。
薄利多売で、何万食も作って、何万食も廃棄している社会。家庭で、まな板も、包丁もないという人も増えている。便利だけど、企業だけではなく、消費者も、もっと考えていく必要がある。SDGsとか、地域貢献とか、そういうことをもっと合体させていけば良いことができるはず。そして、“言うこと”ではなく、まず“やること”が重要なんです。竹を切ったり、食事をしたり、今年はこんなことをやりましたということを「貢献」とするのではなく。
企業が保有している森が雑木林になっていくケースも多い。地域の団体も自分たちの趣味でやっていると、それ以上のことはしないこともある。これから企業は言っているだけではなく、とにかく実践をしてほしい。私もやるからには、仲間を増やしたい。貢献しますと言っていても、この人たちは一体何がしたいんだろう? と思うことが多い。バイオマスやら、色々と、新たな技術があるけれども、実験室やPCやデータ解析だけではなくて、例えば、海の中で実際に潜って、やってみたらどうか? と。そうして、一年間やり続けてみなければ、わからないですよね。
京都の山と兵庫の山では生物も変わる場合もある。土壌、気候など、全部が変わってくる。山歩きをしたり、その土地を調べないとわからない。松にしても、檜にしても、京都で植える前に、その苗木が育っているところをみて、京都で実際に育つか育たないかを見る。違いを見る。経過を見る。こっちで枯れても、そっちでは育つかもしれないと。
経済も森と同じなのではないですか。いろんな多様性があり、いろんな多様なことができるはずです。企業も自然というフィールドでそれをやれば良いのではないか。自分で足を運んで、今の状況、地球の状況を本気になって知ること。建物の中で実験しても仕方がないです。それも必要かもしれないが、自分で出ていって、中で実験したり分析していることと、実際に外で見てみることの「差」はどこにあるのか? そこまでやらないとと思う。
例えば、今以上の暑さになったら、葡萄の苗は今の苗木で耐えられるんだろうか? 山の近くに何があるか? すべては一体なんです。木だけ、畑だけをみるのではなく。昔は、農業も林業も一緒にやっていた。そして、すべてに「水」が必要です。田畑に水を引くためには、杉の木だけを植えていたらダメで、広葉樹林などを植えて、保水性の高い森にする必要がある。山を大事にすることは、田畑を大事にするということと同じなんです。
自分のところで紙を作るために、森に保水性の高いブナの木を植えたり、水が必要だからこそ、そのような木を植えていくことをかつてはやっていたはずです。紙を製造する際に出る毒性の高いものは、きれいにしてから水に流していく。自分たちが使う必要な量を理解してから製造していた。今は違うのではないですか。自分たちの利益のことばかりを考えてしまっているのではないだろうか。企業は、株、金ばかりをみて、瞬時に儲けようとそういうことばかりを考えているのではないですか。
まずは、そういった人たちに森を見てほしい。そして、森で遊ぼう、森に遊んでもらおう。森は僕たちをどんなふうに迎えてくれるのか? 急に突風が吹いてテントが飛ばされるかもしれない。森はいろんな食材を提供してくれる。タラの芽、コシアブラを歩きながら摘んで、お花が咲いているところに行って、一輪挿しに挿してみたり。森というのは実はものすごく楽しいところ。今の人たちは森を忘れてる。虫がいる、暑いと言って、そういう時間を忘れている。
企業は自分たちの活動が自然とどれだけ繋がっているか? 自分たちの活動を辿っていくと、海、川、森、すべてに繋がっているはずです。企業の活動と根底では繋がっている。森は木だけを見ても仕方がない。森と川と海は三位一体のもので、そうやって、自然を全体性で捉えることが重要なんです。企業は、経済、社会というものを全体性で考えることができていますか?
ずっと下まで行ったらわかるはずです。そういったことを全部を外して、経済的に儲かるところなど良いところだけを見ているのではないですか。何かデータが出たからといって、それが何になっていくのかを見えているのかどうか。例えば、電気がどういう形でできているのか? 何万ワットという電力は、そもそもどうやってできているのか? それも一つの環境の話ですよね。電気も水道もなかったら、企業は何もできないでしょう。食糧もすべて、今は海外に頼っていて、日本には一つもないのではないですか?
実は、日本の強さは、いまだに農業国家であること。
日本国土の6割が森林や耕作地です。原点は、そこにある。
もっと本気になって企業が取り組んでくれたら、違うものができる。国土の6割の自然に対して、どれだけ尽力を得ることができるのか? お金はその人がそこに力を注ぎ込んだ証です。機械以上に、人の対応力が、今求められている。
私は何年もかけて森を再生している。自分たちで育ててやってきて、経験談として自分たちでやってきたことを伝えることができる。次の世代の人に早く伝えていきたい。これらの過程の中に、これからやるべきことがある。やってきたことそのままを伝えるという話ではない。気候変動、雨量も変わっている。失敗したことも伝える。お金の対価だけで考えるのか、将来的な価値で考えるのか。新たな業種が生まれていくことも考えるべきでしょう。それを海外から持ってくるのが当たり前ではなく、自分たち日本企業がどのように出していくのか? そこに近づけていかなければ、将来、日本は何もないのではないでしょうか。
サントリーの鳥居さんにしても、歩いて歩いて、ようやく山崎に辿り着いた。山崎から絶対に離れない。山崎の水は絶対に絶やしてはならないと。稲盛さんにしても、自分たちの企業はこうなんだという腹を持っていた。私も、稲盛さんや多くの企業経営者とずっとそういう話をしてきた。
もっともっと下を探っていくべきではないか?
自分たちがやっていることは何なのか?
企業にとって、自分たちの原点はどこにあったのか?
原点、原則の話は常に経営者は触れてきたはずです。今の経営者は、こっちに行こうか、あっちに行こうか、みんながAIだと言ったら、AIに向かっていく。
京都には、森と水がある。森と水があるから、京都がある。
原点は、桓武天皇から始まっている。山紫水明の都として選ばれた土地であり、御所は潰さずに残されている。御所が原点だという証です。そして京都には地下水があり、だからいろんなものが出来上がってきた、料理にしても、染め物にしても。
企業が保有している技術をもっと使えば、例えば、水をきれいにすること、森の保水性を高めることなど、なんぼでも社会に役立つことがあるはずです。研究機関も含めて。原点をうまく利用することによって、企業が地域に貢献できる。先を見越して、日本はこのようなことができるんだということを世界に売ることができる。それが、森という原点へ企業が帰ることの意義であり、企業の原則なのではないですか。
Interview
原点としての自然へ回帰する
京都五山送り火連合会 会長/大文字保存会理事長
長谷川英文さん
気候変動、温暖化、脱炭素といった世界が共通で抱える課題に対して、企業は環境価値、社会価値として、自社の経済活動と結びつけて、解決を超えた価値を創出し、さらに持続的な活動にしていくことが社会的にも求められている。一方で、日本企業の多くは、経済活動と結びつけることの実感値をはっきりと持つことができないという声が多く、“社会貢献”の域を出ないことも未だ多い。
今、なぜ、企業が自然へ還ることが求められるのか?
それは、本当に経済活動とは結びつかないものなのか?
何百年にも渡り継承されてきた「京都の送り火」という文化に対し、幼い頃から森と向き合い続け、「この火を絶やしてはならない」と京都や日本の森の植林や保全活動に全力を注ぎ込む長谷川英文さんにお話を伺った。
*インタビューは『原点としての自然へ回帰する』というテーマでシリーズ化をし、複数回に分けて、お届けします。
林業、漁業、農業といった第一次産業は、ボタンひとつで出来ることではない。気候変動はいまだに解明できていない。いわゆるAI解析は、コンピューターをいじっている人間がこれまでの統計を元にしてやっていることであり、新しく何かを生み出してはいない。鉄腕アトムで描いていたレベルぐらいのロボットさえ未だに生み出せないのが現実ですよね? 海だって、1万メートル深くまで潜れない状況。
人間は自然の中で生きているということを忘れているのではないですか? 酸素、水は人間が作っていますか? 誰が作っていますか? それらは、地球が生まれてきた時から地球全体が作ってきたもの。人間が作ってきたものではなく、作ってもらっている。この地球に。だから、企業が自然と関わりを持つということは、自分たちが生かされているものに対して対価を払っていくこと。知識と動力をそこに費やしていくことです。
地域への貢献がしたいという企業の方々によくお伝えするのは、まずは、1分間、1日を私にくださいと。その時間を一人ひとりが自然に対しての対価を払っていくことに使ってほしいのです。
雨が降り、地球上に落ちる。植物は雨水という栄養を吸って、栄養を地球上に放っていく。自然は生物を可愛がって、循環している。その循環の中のどこでもいいから何か対価を払えませんか? とお伝えするんです。
企業が社会貢献という言葉を使うのであれば、その地域はどういうものか? どういう人が暮らしているのか? 地域とどう付き合っていくのか? 農家なのか? 林業なのか? 自分たちのできる範囲で払っていけばいいのではないですか。払うというのは、なんでも「お金」ということではない。自分たちが、もしもここで商売したら、こうなんだこうなんだという「形」を作っていくことではないですか。
薄利多売で、何万食も作って、何万食も廃棄している社会。家庭で、まな板も、包丁もないという人も増えている。便利だけど、企業だけではなく、消費者も、もっと考えていく必要がある。SDGsとか、地域貢献とか、そういうことをもっと合体させていけば良いことができるはず。そして、“言うこと”ではなく、まず“やること”が重要なんです。竹を切ったり、食事をしたり、今年はこんなことをやりましたということを「貢献」とするのではなく。
企業が保有している森が雑木林になっていくケースも多い。地域の団体も自分たちの趣味でやっていると、それ以上のことはしないこともある。これから企業は言っているだけではなく、とにかく実践をしてほしい。私もやるからには、仲間を増やしたい。貢献しますと言っていても、この人たちは一体何がしたいんだろう? と思うことが多い。バイオマスやら、色々と、新たな技術があるけれども、実験室やPCやデータ解析だけではなくて、例えば、海の中で実際に潜って、やってみたらどうか? と。そうして、一年間やり続けてみなければ、わからないですよね。
京都の山と兵庫の山では生物も変わる場合もある。土壌、気候など、全部が変わってくる。山歩きをしたり、その土地を調べないとわからない。松にしても、檜にしても、京都で植える前に、その苗木が育っているところをみて、京都で実際に育つか育たないかを見る。違いを見る。経過を見る。こっちで枯れても、そっちでは育つかもしれないと。
経済も森と同じなのではないですか。いろんな多様性があり、いろんな多様なことができるはずです。企業も自然というフィールドでそれをやれば良いのではないか。自分で足を運んで、今の状況、地球の状況を本気になって知ること。建物の中で実験しても仕方がないです。それも必要かもしれないが、自分で出ていって、中で実験したり分析していることと、実際に外で見てみることの「差」はどこにあるのか? そこまでやらないとと思う。
例えば、今以上の暑さになったら、葡萄の苗は今の苗木で耐えられるんだろうか? 山の近くに何があるか? すべては一体なんです。木だけ、畑だけをみるのではなく。昔は、農業も林業も一緒にやっていた。そして、すべてに「水」が必要です。田畑に水を引くためには、杉の木だけを植えていたらダメで、広葉樹林などを植えて、保水性の高い森にする必要がある。山を大事にすることは、田畑を大事にするということと同じなんです。
自分のところで紙を作るために、森に保水性の高いブナの木を植えたり、水が必要だからこそ、そのような木を植えていくことをかつてはやっていたはずです。紙を製造する際に出る毒性の高いものは、きれいにしてから水に流していく。自分たちが使う必要な量を理解してから製造していた。今は違うのではないですか。自分たちの利益のことばかりを考えてしまっているのではないだろうか。企業は、株、金ばかりをみて、瞬時に儲けようとそういうことばかりを考えているのではないですか。
まずは、そういった人たちに森を見てほしい。そして、森で遊ぼう、森に遊んでもらおう。森は僕たちをどんなふうに迎えてくれるのか? 急に突風が吹いてテントが飛ばされるかもしれない。森はいろんな食材を提供してくれる。タラの芽、コシアブラを歩きながら摘んで、お花が咲いているところに行って、一輪挿しに挿してみたり。森というのは実はものすごく楽しいところ。今の人たちは森を忘れてる。虫がいる、暑いと言って、そういう時間を忘れている。
企業は自分たちの活動が自然とどれだけ繋がっているか? 自分たちの活動を辿っていくと、海、川、森、すべてに繋がっているはずです。企業の活動と根底では繋がっている。森は木だけを見ても仕方がない。森と川と海は三位一体のもので、そうやって、自然を全体性で捉えることが重要なんです。企業は、経済、社会というものを全体性で考えることができていますか?
ずっと下まで行ったらわかるはずです。そういったことを全部を外して、経済的に儲かるところなど良いところだけを見ているのではないですか。何かデータが出たからといって、それが何になっていくのかを見えているのかどうか。例えば、電気がどういう形でできているのか? 何万ワットという電力は、そもそもどうやってできているのか? それも一つの環境の話ですよね。電気も水道もなかったら、企業は何もできないでしょう。食糧もすべて、今は海外に頼っていて、日本には一つもないのではないですか?
実は、日本の強さは、いまだに農業国家であること。
日本国土の6割が森林や耕作地です。原点は、そこにある。
もっと本気になって企業が取り組んでくれたら、違うものができる。国土の6割の自然に対して、どれだけ尽力を得ることができるのか? お金はその人がそこに力を注ぎ込んだ証です。機械以上に、人の対応力が、今求められている。
私は何年もかけて森を再生している。自分たちで育ててやってきて、経験談として自分たちでやってきたことを伝えることができる。次の世代の人に早く伝えていきたい。これらの過程の中に、これからやるべきことがある。やってきたことそのままを伝えるという話ではない。気候変動、雨量も変わっている。失敗したことも伝える。お金の対価だけで考えるのか、将来的な価値で考えるのか。新たな業種が生まれていくことも考えるべきでしょう。それを海外から持ってくるのが当たり前ではなく、自分たち日本企業がどのように出していくのか? そこに近づけていかなければ、将来、日本は何もないのではないでしょうか。
サントリーの鳥居さんにしても、歩いて歩いて、ようやく山崎に辿り着いた。山崎から絶対に離れない。山崎の水は絶対に絶やしてはならないと。稲盛さんにしても、自分たちの企業はこうなんだという腹を持っていた。私も、稲盛さんや多くの企業経営者とずっとそういう話をしてきた。
もっともっと下を探っていくべきではないか?
自分たちがやっていることは何なのか?
企業にとって、自分たちの原点はどこにあったのか?
原点、原則の話は常に経営者は触れてきたはずです。今の経営者は、こっちに行こうか、あっちに行こうか、みんながAIだと言ったら、AIに向かっていく。
京都には、森と水がある。森と水があるから、京都がある。
原点は、桓武天皇から始まっている。山紫水明の都として選ばれた土地であり、御所は潰さずに残されている。御所が原点だという証です。そして京都には地下水があり、だからいろんなものが出来上がってきた、料理にしても、染め物にしても。
企業が保有している技術をもっと使えば、例えば、水をきれいにすること、森の保水性を高めることなど、なんぼでも社会に役立つことがあるはずです。研究機関も含めて。原点をうまく利用することによって、企業が地域に貢献できる。先を見越して、日本はこのようなことができるんだということを世界に売ることができる。それが、森という原点へ企業が帰ることの意義であり、企業の原則なのではないですか。
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